物心ついた頃にはもうすでにハンターとして戦うことが当たり前になっていた。
悪魔や悪霊、この世ならぬものと対峙することなど日常的な光景だった。
そんな僕たちに周囲の人々は皆こぞって避けていた。
その目に奇特なものを見るように。
中には同情すらする者もいた。
「可哀相に。お母さんを亡くして、あんなになってしまったのね」
そんな人達は皆、その口を不適な笑みに変えるのだ。
まるでそれは仮面を被ったピエロのように。
怖かった。
周囲の目が、声が。
表面では心底悲しむ素振りを見せて、笑うその姿が。
「気にするな。いいたい奴には言わせておけばいい。俺達は俺達だ」
そう言った親父の言葉すら嫌悪に感じた。
未だにピエロを見るのが嫌なのは、あの頃の自分と何ら変わってないからなのかもしれない。
家を出たのだって、周囲に事情を話さなかったなのだって、全部なかったことにしたかったからだ。
自分もまたピエロだからだ。
周囲に隠しておどけて見せて、嫌なことがあっても顔にも出さず、その仮面に本心を隠して。
愚かなピエロ。
けれど。
「知ってるか?ピエロは賢いんだ。どんなことがあろうと笑っていられるだけの力がある。ピエロほど凄いものはいない」
いつしか小さい頃兄が言った言葉。
ピエロを怖がって泣いた自分にかけた言葉だった。
それ以来、ピエロを見てもさほど恐怖心はなくなった。
だが怖さは消えても苦手なのは変わらなかった。
どんなことがあろうと、笑っていられるだけの力があるピエロが妬ましく思ったからだ。
自分はピエロに遠く及ばない。
愚かな自分。
きっとこれから先、ピエロを好きになれる日なんて来ないんだろう。
あまりに世界が違いすぎるから。
「サム。お前ならピエロが来ても、招き入れたりなんかしないよな」
「何が言いたい?」
「いや?」
からかってはほくそ笑む表情は昔から変わらない。
悪戯好きな所は、子供の頃から何一つ変わってない。
「兄貴なら、入れるんじゃないの」
「は?お前俺を馬鹿にしてるのか?俺のハンターとしての実力はだな」
「じゃなくて。子供の頃はって話」
「・・・・子供の俺も一流のハンターだ」
「まっそういうことにしとく」
「そういうことって何だ、サミー!」
表情を見せないピエロ。
どんなことがあっても笑っているピエロ。
芸達者な道化師。
・・・・その本心は?
END
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