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一体何が起こった?
あまりに一瞬の出来事に考える間もなく、凄まじい衝撃が襲ってきた。
突然の出来事に、僕らは息を止めた。
兄と父の名を意識ある限り何度も叫び続けた。
暴れる身体を押さえるために、鎮静剤を打たれ意識は闇に溶けていった。
闇を走っていた。
まるで幼い子供に戻ったように怯えながら兄と父を探していた。
悪夢に魘されながら、目を醒ました。
目に飛び込んできたのは、真っ白な天井だった。
さらに意識を覚醒させたのは、消毒液の独特な鼻を突き刺すような匂いだった。
鎮静剤の作用で意識はぼんやりとしている。
けれど、すぐに凄まじい不安が胸の内に膨らみ、心臓をどくどくと鼓動させた。
・・・・ディーン?
沸き上がる不安に駆られ、まだ痛みの残る身体を無理矢理抱き起こした。
起き上がった途端、眩暈にクラッとなる。
「目が覚めたのね?よかったわ、あなた比較的軽傷で済んだのよ。暫くすれば歩けるわ」
「・・・兄は?父はどこに!?二人も助かった、そうだろう!」
「いいから、今は休んで。あれだけの大事故だったんだもの、まだ頭が混乱してる。だから、ね」
ナースがはぐらかしたのを察し、嫌な予感が頭を過ぎった。
居ても立ってもいられず、ベッドを飛び出した。
「あ!ダメよ!安静にしてなきゃ!何処に行くのサム!」
ナースの言葉も無視して、走った。
通りすがりの医者に兄の居場所を聞いて、ようやく辿り着いた。
けど、そこにいたのはあまりに痛々しい兄の姿だった。
かろうじて呼吸をしているが、呼吸音は弱々しく、彼に取り付けられた器具が状態が重々しいことを示していた。
何も言えず、兄のそばに寄り手を伸ばそうとしたときだった。
「お父さんに、会えるよ」
父は無事だったのだと安心するより先に、気になったのは兄のことだった。
今まで傍にいたのはずっと兄で、兄がいたから自分はここまで来られたのだ。
会えばすぐに口論になってしまう父より大事な家族だった。
なのに・・・医者の言葉から出たのは見放された残酷なものだった。
それでもと誓った。どんな手を使っても必ず兄を快復させて見せると。
息子の心配より悪魔退治や銃が大事な父に怒りは治まらなかった。
それが後にあんな後味の悪さを味わうことになるとは思いもしなかったのだけど。
ただ兄を思うが故の一心だった。
助けたかった、どんなことを犠牲にしても。
兄の容体が急変し、死んでしまう、自分を残して逝ってしまうと感じたとき、どうしようもないほど胸が痛かった。
悲しくて辛くて、ただただ祈っていた。
逝くな、俺を置いて逝くな。頑張れ、負けるなと。
その時不思議な気配を傍に感じた。
それは懐かしい、心地よい感覚だった。
兄の声が、聞こえた気がした。
ディーンの目が覚めて、事のあらましを説明してやればいつもの調子で茶化し始めた。
それが兄なのだから仕方ないのだけれど。こっちは本気で心配したのにとほんの少しむかついた。
「でもまさか、俺が幽体離脱してたとはな。本当にそういうのってあるんだな。死の淵を彷徨うってか。覚えてないのが惜しい」
「何で」
「そんな貴重な体験滅多に出来ないだろ。それに死神がどんな姿で現れたのか気になるじゃないか」
「どうせ、美人でグラマーな子なんじゃない。ってそんな身体になってまで狩ろうとしてた根性に負けるよ」
「まぁ仕方ないだろ。自分を死の世界に連れてこうとしてるんだぞ?戦うのは当たり前だろう」
「僕が言ってるのはそういうことじゃなくてさ。自分の身が危ないってこと考えなかったのか、兄貴は」
「根っからのハンターだからな」
「そうだけどさ。でも、よかったよ。助かって何よりだ」
「サミー。ありがとな、心配掛けた」
「その呼び方やめろって言ってるのに」
「いいだろ、サミー」
兄が戻って、父も一緒で、全てがもう一度始まると思っていたのに。
運命の輪は確実に破滅の道へ向かっていた。
大切な人を無くす悲しみを、悪魔は僕らにもたらし、そして・・・・・・・・・
より残酷な運命が僕らを待ち受けていたんだ。
end