兄と悪霊を退治する旅に出てから、あんなにも殺伐した兄を見るのは初めてだった。
心の悲しみを悟られまいと必死に隠すから余計に、分かってしまう。
何度言っても向き合おうとしてくれない矢先に起こった出来事だった。
あそこまで残忍な手口でヴァンパイアを絶命させたのだ。
見事なまでの・・・・やり方だった。
ディーンは一切の感情を無くした人形のように僕を見ていた。
そんな彼に対して黙って見返すことしか、出来なかった。
その場の雰囲気を破ったのは、ディーンに喜びの声を掛けたゴードンだった。
見事だと笑って、ディーンと固い握手を交わしていた。
それでも視線だけは僕の方を見たままで、そらすことも出来ずにいた。
酒場に場所を移して、祝いの酒だと称して乾杯をする二人を横目に、座っていた。
どうしてそんな気分になれるのか、分からなかった。
彼が一体何をした?
そんな気になってしまうのだ。
調べれば、彼等が人間に害をなしたという情報は一切無かった。それほど大きい町でもないこの場で襲われたという情報はなかった。
それがずっと気になっていた。
先のヴァンパイアだって、亡くなったことを泣いてくれるような人間がいたくらいなのだから。
前とは何かが違うと感じ始めていた。
考えれば考えるほど、分からなくなっていた。
人でないから殺せばいい。
僕らはずっと狩りをしてきた。それは人を助ける為でもあったはずだ。
なのに、今回は一体誰を助けたというのだろう。
「サミーどうした?」
僕の心を知ってか知らずかディーンが呼びかけてきた。
言葉に窮していると横からゴードンが「サミー」など呼ぶから余計に苛立った。
呼ばれるのも嫌いな呼び名を更に好きになれない人間に呼ばれるなど言語道断だった。
「それは兄だけの呼び名だ」
そう言うことで、兄とお前とは違うと言いたかった。
所詮僕たちとゴードンは違う、そう言いたかった。
「帰るよ。僕が居ると場をしらけさせそうだから」
拉致された先で出会ったヴァンパイアは気の強そうな美人の女だった。
ただ生きたい。
そう言った彼女の一言に、今回僕らが助けるべき誰かを知った。
真剣な瞳、血を求める本能すら意志の力で押し止めるほど強い想い。
力で支配しようとするのではなく、人と共存しようとしている。
今までにはなかったタイプだった。
そんな彼女の想いは確かに兄に、届いた。
嬉しかった。
彼女たちを救えたことが。兄が自分を信じてくれたことが。
兄が自分に何かを隠していることを知っている。
けど、いつか。
いつか話してくれるのを、信じて待っている。
人ならざるモノが人と相容れる日がいつのひか、本当になればいい。
END
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