ディーン・ウインチェスターから借りたネックレスを手にどれだけ探し回ったか。
一向に父の存在は感じる取ることが出来なかった。
神はいない--
ウリエルもザラカイアも天にいる誰もが口を揃えて言う。
神は・・・・父は本当に我らを捨てたのか。
この現状に悲観し、姿を消したのか。
いや、そんなはずはない。父は我らを愛しているはずだ。
愛しているものを簡単に見捨てたりするはずがない。
神の愛は平等で、不変なものだ。
大天使に抹殺された私を誰が救ったと言うのだ。
死を復活させることが出来るのは、この世でただ一つの存在しかいない。
なのに、何処を探しても見つかる気配がない。
この手に握りしめるネックレスに目を落とす。
彼なら?
彼は言ってくれた。
「探せ」と。
彼なら私の気持ちを理解してくれるはずだ。
「ボビーか?」
「天使が電話とはな。世も末なわけだ。どうだ、俺の脚は治してくれそうか」
「すまないが、まだだ」
「たく、役立たずな天使だ。今度それ以外で電話してくるなら、轢くぞ」
「・・・・サムに電話をかけたが繋がらない。ディーンの居場所を教えて欲しい」
ボビーに居所を聞いてここへ来たのだが、ディーンの様子はただ事じゃなかった。
何処か投げやりな、それでいてやけに落ち着いているような・・・アンバランスさ。
その原因は簡単についた。
辺りを見回してみても、いるはずの人物がいない。
その気配さえないのだ。
「サムはどこにいる?」
聞いてみれば、答えは予想通り。
ディーンがこうなる原因など他にはない。
今の状態のディーンに頼むのも気が引けたが、頼れる人物も時間もない今はどうしようもない。
「ラファエルを捜す?」
「ああ、私を殺した天使だ。大天使であるラファエルなら何かを知っているかもしれない」
「だが、どうやって?」
「大体の見当はついている。だが、肝心のラファエルの器が分からない」
「それを聞き出すってことか・・・なら話は早い」
「では、行こう」
「ちょ!待て待て!」
瞬間移動なら早いのに、彼は車で行くことを頑固として譲らない。
人間は何故不便な方を進んで選びたがるのだろうか。
全く理解が出来ない。
長い時間をかけてようやく目的の場所へ辿り着いた。
そして、突然彼は問いかけた。
「ちなみにお前はどうやってそれを聞き出そうと考えてた?」
「私は天使だ。ラファエルという天使の器を探している。心当たりはないか?」
「・・・・だろうと思ったよ。ったく、馬鹿正直な奴。いいか、ここは人間の世界だ。人間には人間のやり方があるんだよ」
そういうと、彼は車のトランクから何かを取り出した。
そして、突然振り向いたかと思ったら、光のようなものを当てられた。
「お?結構男前に写ってるぞ。これで完璧」
「ディーン・・・・電話番号を教えてくれ」
「・・・・それ、今言うタイミングか?」
回りくどいやり方で、ラファエルの器の場所を知ることが出来た。
人間というのは何とも不便な生きものだ。
誰が私を復活させた?
それは神でしかありえないはずだ。
なのに、ここに来てどうして奴の名が上がる。
ルシファー。
奴が私を復活させる目的などありえない。
同じ堕天使の身で同情した?元は奴も天使だ。有り得ないこともない。
だが・・・。
「俺の父もそうだった。死んだと聞かされて、それでも納得できず探し続けた。それは自分を信じたからだ。誰に言われようと、自分自身の勘で“いる”と信じ続けた」
ディーンの言わんとしていることは分かる。
諦めずに自分を信じろということだ。
「お前はどうなんだ?いると、思うのか?」
「私は・・・・生きていると思う」
「なら、探せ。誰に言われても自分を信じろ。俺もそうだったように」
ならば、と別の感情が心に浮かんだ。
「君は?君は大丈夫か?」
「俺か?平気さ。今までにないくらい幸せを感じてる。ずっと俺は家族に縛られていた。だからか、今は凄く気分がいいんだ。一人になれて、幸せだ」
嘘だと、言いたかった。
言葉の意味とは裏腹に表情に一切の感情もみられない。
それの何処が、幸せなんだと。
君の心は不安定で今にも砕け散りそうなほどなのに。
けれど、何も言えなかった。
自分がそれを言ったところで、彼には届かないことが分かったから。
彼に対して何もできない自分が腹立たしくて、これ以上彼の痛ましい表情を見るのが耐えられなくて、消えることしかできなかった。
“こんなに笑ったのは久しぶりだ”
気付いているのか?
笑ってなどいないことを。
君は決して笑ってなどいない。
君の本当の笑顔を私は見たことがない。
だけど、君がそう言ってくれるならば、信じたい。
私に信じる心をくれる君を。
君が全ての不幸を背負うなら、せめて少しの安らぎを。
私がそばにいることで得られる何かがあるなら、君の傍に居続けよう。
END
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